羽村を拠点に「五日市憲法草案」の起草者・千葉卓三郎の推し活に取り組む「タクロン・チーバー普及協会」(羽村市)が現在、賛同者を募り、小説「反骨」(2014年「民の旗」として刊行)の復刊を進めている。
五日市憲法草案は1968(昭和43)年、五日市町の深沢家の土蔵で見つかった。204条から成り、言論や思想の自由、人民の政治参加、義務教育を受ける権利を盛り込むなど現行の憲法に通じる、当時としては先進的な憲法案とされる。2013(平成25)年、美智子上皇后(当時は皇后)もその素晴らしさに言及し、注目された。
卓三郎は仙台藩下級藩士の家に生まれた。戊辰(ぼしん)戦争白河口の戦いに参戦。敗戦を味わい、真理を求めて皇学、仏教、キリスト教などを学んだ。中でもギリシャ正教に傾倒。上京して洗礼を受け、布教活動に携わった。1879(明治12)年ごろから秋川周辺の各所で教職に就いた。
五日市勧能学校に勤めると、深沢名生(なおまる)、権八父子ら新しい知識を求める五日市の人たちに受け入れられた。学芸講談会の活動を通じて地域の自由民権運動にも影響を与え、五日市憲法草案起草へと結実させていく。
「反骨」は卓三郎を中心に近代日本の黎明(れいめい)期に生き、新しい日本の形成に熱い情熱を注いだ当時の五日市の人々の姿を描いた岡村繁雄さん(ジャーナリスト)の作品。同協会は昨年11月、卓三郎の没後140年の節目として羽村市内で「反骨」の朗読会を開いた。同協会代表の羽村幸子さんが小説の要所を抜粋し、解説も加筆。読み手は塩田知佳さんが務めた。
その後、朗読CDの販売を始めたところ、「原作を本で読みたい」という声が届いた。ところが本は絶版となっていた。羽村さんらは復刊を著者に相談。仙台の出版社「荒蝦夷(あらえみし)」から復刊する運びとなった。
没後140年の節目に、仙台などでも卓三郎の功績を見直す動きがあり、有志が講演会を開催。その後、「卓三郎を学ぶ会」を結成した。一方、仙台の資福寺にあった卓三郎の墓が一昨年、墓じまいされ、標柱が行き場をなくしていることが新聞数紙で報道された。
同協会は、復刊の計画と墓じまいの報道が重なったことから、卓三郎への追悼の気持ちを本の復刊で表したいと、本を紙の碑とした。紙碑の意図を込めた小説の復刊に賛同する人たちを募り、予約購入を受け付けている。予約購入者には巻末に氏名または団体名を掲載する。
仕様はA5判(ブックレットタイプ)、75ページ前後。価格は880円。予約の締め切りは8月25日。11月ごろの発行を予定する。