御岳山の宿坊「うつぼや(靫矢)荘」(青梅市御岳山)が施設の新築工事を行っており、7月に棟上げ式を予定する。御岳山での新築工事は記憶を持つ人がいないほど長く行われていない。解体から新築工事まで山上では難工事になる。来春、竣工する。
靱は「ゆき」とも読み、矢を入れるための筒。「靱矢姓は武家の出をうかがわせる」と話すのは主人の靱矢正さん。「私で14、15代目。旧宿坊の母屋は築200年たっていた」とも。50年前まで増築を重ねてきたが、近年は客層が変わり、コロナ禍を経て、カップルや家族、グループが、より利用しやすい施設への建て替えを決断した。今は別に暮らす長男の直樹さん夫婦、2人の孫と一緒に暮らせるようになることも背中を押した。
200坪の敷地に2階建て100坪の建物が建つ。定員2人の洋室、家族やグループでも利用できる同4人の和洋室の客間と浴室を2階に配置。1階に食堂と神前の間がある。「宿泊施設と家族の居住空間が半々になる」という。
工事は山上とあり、難工事になっている。重機は自走で山を登り、現場に到着。それでも大型機器が持ち込めないため、人手に頼る面が多かった。基礎工事は生コン車が登れないため、現場でセメントをこねるなどした。今後は建築資材の運び入れなどで苦労が予測される。
宿坊は母親の純子さん、妻の由美子さんが切り盛りしてきた。5年前に地元のJAを退職した靱矢さんが本腰を入れ始めた矢先、コロナ禍に見舞われ、2年前には大腿骨を折った純子さんが老人福祉施設に入所。宿坊は休眠状態を余儀なくされてきた。
それでも靱矢さんは2年前に御岳山観光協会長に就任。今年春には御岳登山鉄道などと「御岳山プランディング会議」を立ち上げ、活性化に力を注ぐ。「同じ時間を過ごしても自然豊かな御岳山では感じ方が違う。気持ちが落ち着くし、自分を取り戻せる。神の宿る山のゆえんかもしれない」と話す。
宿坊はアットホームなもてなしと、旬の山菜や自家製のこんにゃく玉、自家菜園の採れたての野菜を生かした料理が「自慢」。新規オープンには長男の妻もスタッフとして加わり、宿坊の新たな歴史がスタートする。